平成24年1月15日 最高齢のお客様
2012-01-15
つい年末にもお見えになったばかりのお客様から
「父を連れてゆくので、何かお守りになるような
念珠を作ってやって欲しい。」と連絡を頂いた。
実は先週、
昨年から入退院を繰り返していた
この方のお母様が永い闘病生活を終え、逝去された。
「お守り」というのは、ずっと主となって自宅介護をなさって来た
86歳の父親の為にである。
言っては申し訳ないが、かなりのご高齢の方が
お一人で介護されていたと聞いて正直驚いた。
ご自身が健康でなければ、要介護区分の高い人を見るのは
かなりしんどい。
自宅療養介護の場合、ケアプラン内容にもよるが、
ヘルパーさんはする仕事が限られており、
身体介護、生活援助の枠があり、
30分単位で区切られているため、時間が来れば帰ってしまう。
計画通りに仕事をするのが当然といえば当然なのだが・・・。
特に配偶者や子が同一世帯に住んでいる場合は
家事などの生活援助は付けられない場合が多い。
しかし働き盛りの子というのは、
たいてい日中は仕事で留守ある。
実質、家事をしていたのはこのお爺さんお一人。
まさに高齢者が高齢者を介護する
【老々介護】の図が見えてくる。
初七日が終わったばかりの今日、
寒い中、依頼主とお父様でお見えになった。
事務所始まって以来、最高齢のお客様である。
旧家では、自宅で葬儀を行うのがまだまだ普通の事で、
家中の家具や荷物を移動させたため、混乱の中で
いつも身に付けていらした念珠を紛失されてしまったらしい。
来るなり「ワシはそんな物イラン!!」と
そっぽを向かれ頑なに拒否。
男性が父の為を思って依頼されたものの
愛用の品ではないからか、
ご本人は気に入らなかったようである。
気疲れもあり、介護疲れもあり、まだ整理も付かぬ
最中なのだから気持ちも分かる。
サイズすらなかなか測らせてもらえなかったが、
色々と話しをしているうちに表情も柔らかくなり、
「でかい(珠サイズ)のはイラン。小さいやつでええ。」
ようやく左の手首を差し出してくださった。
このお父様は奈良師範学校在学中に戦争を体験された。
フィリピン、中国、タイなど様々な国へ渡り、
生と死を間近で体験し、
厳しい時代を生き抜いて来られた方である。
学問のみならず、芸術方面にも造詣が深く、
まさに質実剛健、確固不抜という言葉がピッタリである。
現役中は毎日新聞の記者として活躍されていた。
1970年代にはオリンピックのバレーボールの
遠征にも同行されたそうで、なかなか聞けない貴重な
当時の出来事を色々と聞かせて下さった。
おまけに中国には何度も行かれただけあって、
男性には珍しく石の名称にも大変詳しくていらした。
かつて、奥様に翡翠の原石を購入し
プレゼントなさった事もあったそうである。
あちらでは男性が大切な人に贈る宝石は翡翠。
ジャーナリスト鳥越俊太郎氏や
現和歌山市長の大橋健一氏も
毎日新聞に入社された当初は、このお父様が指導されたという。
当時のお話をしている内に、活き活きとした笑顔も出てきた。
依頼人のお気持ちとしては、
介護から離れ、突然する事が無くなってしまった父親に、
悲しみから気持ちが沈まぬように、お守りが欲しい。
年齢が年齢なだけに、気力が落ちないように・・・
私としてもそれが一番心配なので、
お清めの意味もあり、全てヒマラヤ水晶のシンプルな念珠で
作らせていただいた。
あんなに嫌がっておられたが、早速身に付けてくださり、
「えらい、お世話掛けてすまんの。」
帰り際には優しいお顔になられ、お礼まで言っていただいた。
これがいつもの顔なんだろうな・・・
少しだけ、本当のお爺さんの姿が見えたような気がして
ホッとする。
でもお礼を言うのは、親思いの優しい息子さんに。

すっごいいいお話、ありがとうございました。私の母もいずれお世話になりたいです。